展覧会「200年をたがやす」|CULTIVATING SUCCESSIVE WISDOMS

【レポート】ココラボ アーカイブプロジェクト「ココラブ」

美術分野で実施したココラボ アーカイブ プロジェクト 「ココラブ」に関連して、服部浩之(キュレーター/「200年をたがやす」全体監修)によるレポート記事を掲載します。
 

ココラボと「ココラブ」の活動を刻む

ココラボ アーカイブ プロジェクト 「ココラブ」は、アートスペース ココラボラトリー(以下、ココラボ) の2005年から2020年までの15年間の全活動の資料をまとめることであらためて振り返り、その全体像を多くの人に伝え、21世紀初頭の秋田における自律的な芸術実践を記し、この地域の歴史に刻む試みだ。本稿はその一環として、設立から現在までのココラボの変遷を紹介するとともに、「ココラブ」の活動記録を書き留めるものだ。
 

ココラボ設立まで

ココラボは2005年に秋田市大町の川反中央ビル一階に設立されたアートスペースだ。初代代表で秋田県五城目町出身の笹尾千草さんは京都造形芸術大学(現在の京都芸術大学)の芸術学科(アートプロデュース学科の前身)で幅広くアートやデザインを学び、数年間京都で働いたのちに秋田に戻り、ギャラリーをはじめたいと考えていた。同じ頃、秋田公立美術短期大学(現在の秋田公立美術大学)を卒業後秋田市内でデザイナーとして活動していた後藤仁さんは、秋田で様々な人が自由に展示をしたり公演などを気軽に発表する場の必要性を感じていた。そんな2人が出会い、アートスペース設立に向けて動き出した。笹尾さんが秋田県の創業支援事業の助成金を獲得したことが、設立の大きな後押しとなった。
秋田市内で物件を探しはじめ、様々な場所を検討したのち、ようやく理想的な物件に出会ったという。残念ながらその物件は家賃などの条件が折り合わず諦めざるを得なかった。そんなときに、「すぐそばに別の建物が空いているから見てきたらどうか」と勧められ、出会ったのが現在のココラボが入居する川反中央ビルだ。1969年に建てられた元・印刷工場だった場所だ。当時このビルの半地下空間ではラーメン屋が営業しており、上階はのちに建設会社の現場仮事務所となるような雑居ビルだったそうだ。
最初は1階部分のみを借り、友人や知人らの協力も得て多くの部分をDIYで自分たちの手で改修し、2005年5月にオープンを迎える。オープニング企画「COLORS グループ展 G.W. GAPWORLD ~ストーリーのある非日常空間~」は、後藤さんや笹尾さんが所属するcolorsというグループによる展覧会で、5月3日(火)~5月8日(日) の6日間開催された。

アートコンプレックスとしての川反中央ビルの誕生と変遷

2006年11月には同ビル3階に、笹尾さんが現代美術と現代の手仕事を扱う企画ギャラリー「project room sasao」を、ウェディングドレスのデザインと制作を手がける高木瑠衣さんが「トワル.rui」を、そして書店勤務を経て独立した伊藤幹子さんによる「書籍販売まど枠」を同時にオープンさせる。さらに2007年4月には2階に石田珈琲店 喫茶室がオープンし、ついに川反中央ビル全体が複合的な創造活動の拠点となった。それぞれ経営は別で、独立した活動が集う雑居ビルだが、笹尾さんがかつて「奇跡のバランスでなりたつ」と言っていたように(※1)、不思議なまとまりというか一体感のある場が生まれていた。新しい表現が生まれるよう様々な表現者の活動を支援し発表の機会を提供するギャラリー、とてもセンスがよく美味しいコーヒーを提供してくれるカフェ、小さいけれど絶妙なセレクトの書店、そして丁寧な手仕事をする作家のスタジオなどが混在する場。他にない唯一無二のアートセンターのかたちだ。(※2)行政がつくったいわゆる公共施設ではなく、この地で活動する人々の必要から生じた複数の主体が協奏する場としてのアートセンター。
その後、2011年にトワル.ruiが東京へ、石田珈琲店が札幌に拠点を移し、川反中央ビルを離れることになる。3階のトワル.ruiの後には、分割したスペースの一部分に京野誠さんがTシャツの制作と販売を行う「6 JUMBO PINS」を、そして石田珈琲店で働いていた高坂千代子さんがCafé Epiceを同じ場所にオープンさせ、どちらも現在まで続いている。
また、2012年には3階の一部に、音楽系イベントの企画運営やCDの販売などを手がける「studio」がオープンする。一方で、project room sasaoは2014年以降は笹尾さんの体調不良などもあって展覧会は実施されておらず、まど枠の伊藤さんがその場所を引き継ぎ、展示会などで使用するようになった。
そして2019年にはまど枠が亀の町のヤマキウ南倉庫に移転し、その後に造形作家の菅原亜希子さんが自身の彫刻作品とクラフト作品「h.u.g.」を販売する「and toiro」をスタートさせた。かつてproject room sasaoだった場所も菅原さんが引継ぎ企画展を実施するギャラリーが併設された。さらに同年11月には、2階のCafé Epice向かいに「Flower Space T’s(フラワー スペース ティーズ)」が開店した。
※1.笹尾千草「奇跡のバランスでなりたつ美術の場所」ネットTAM、2008年
※2.筆者は2009年にはじめてココラボを訪問し、上述するように実感した。
 

ココラボの変遷

ココラボは、スペースレンタルと自主企画事業の両輪で運営がなされており、レンタル料が主な収入源となる。また、後藤さんのデザイン事務所も併設されており、ギャラリー利用者のチラシやDMなどのデザインを請け負うことも含めて、多角的に運営されている。ココラボのスペースはギャラリーと位置づけられているが、展示だけでなく、ライブ、演劇やダンスの公演、講演会や販売会など、各種イベントに対応する柔軟な場所だ。だから展示以外の目的で利用されることも多い。
私は断片的にしかココラボの状況を知り得ないわけだが、利用する人たちの話を聞くと、単なる貸しスペースと捉えている人はあまりいないのが興味深い。「何か表現したいと考えている人が、どのように自分の表現をかたちにするか相談しながら実現できる場所」とココラボを捉えている人が多数いるのだ(※3) 。これは、笹尾さんや後藤さんがこれまでひとりひとりの利用者と丁寧に接してきたことの証だろう。
一方で、秋田県外から展覧会などで招待されてやってくる多くのアーティストやゲストが、笹尾さんが秋田を案内するアテンドの素晴らしさや、ココラボに関わる人々のおもてなしに感銘を受け、秋田に非常によい印象を持って帰っていった(※4)。実際私もはじめて秋田を訪れた際の彼らの丁寧な案内に感激し、その後も度々秋田を訪れ、2017年からは秋田公立美術大学の教員となり、秋田に暮らしはじめた。
ココラボの運営上の仕組みは貸しギャラリーだが、実態としては表現や創造、その発表に関する萬相談所。秋田でなんらかの創作活動をしたい人にとって、不可欠な場所となった。
ココラボのメンバー編成は、2005年から2009年までは笹尾さんと後藤さんの2人のみだったが、2009年から2014年までは佐々木陽子さんがココラボスタッフとして加わり、笹尾さん、後藤さんと3人体制となった。佐々木さんが2014年に株式会社MAGを設立しシェアオフィスなどの運営を手がけるようになり、ココラボを離れたあとは、再び笹尾さんと後藤さんの2人体制となる。
過労などでしばらく体調を崩していた笹尾さんは、2015年に秋田を離れることになる。それに伴い、後藤さんが2代目ココラボ代表となる。アルバイトなどでサポートしてくれる人はいるものの、後藤さんの1人体制になったことで、ココラボの機能や立ち位置、役割が少しずつ変化していく。
2020年には新型コロナウィルス蔓延の影響を受け、4月13日から5月14日までは完全休業となり、その後も8月までほとんどギャラリー利用の予約が入らず、継続の危機が到来した。そこで後藤さんは「未来の展覧会チケット」を制作・発売し、支援を呼びかけた。このチケットはギャラリー利用料として使えるもので、購入して作家にプレゼントすることができたり、川反中央ビルのショップで割引券としても利用できる。多くの人の支援により危機を乗り越え、11月には設立15周年を祝うオンラインイベントも実施された。そして、2021年に「200年をたがやす」の一環として、秋田市文化創造館で約15年の活動の記録を整理し公開するココラボ アーカイブ プロジェクト「ココラブ」を実施し、その膨大な活動をまとめるに至った。「200年をたがやす」会期終盤の9月17日から26日にかけて、ココラボでは16周年記念展「20-21(ニイマルニイイチ)」が開催され、ココラボに関わりの深い美術、工芸、音楽などさまざまな分野で活動する作家たちの作品が展示(販売)された。
※3.ココラブ・ラジオの第2回、第3回収録を参照
※4.project room sasaoで展示したアーティストたちから筆者が直接聞いた話による
 

project room sasaoについて

project room sasaoは、2006年川反中央ビル3階に笹尾さんがオープンした現代美術と現代の手仕事を扱うギャラリーだ。ココラボが誰もが利用できるギャラリーであるのに対し、project room sasaoは主宰する笹尾さんが、今(その時)秋田で紹介したいと考える作家を独自にセレクトし、個展形式で紹介する企画ギャラリーだ。2006年11月14日の杮落としの展覧会では、秋田市出身で秋田を拠点とする美術家・村山留里子さんの個展「婦人のコレクション」が開催された。村山さんは2000年頃に秋田に戻るまでは東京を拠点としており、現代アートやファッションなどのフィールドの第一線で活躍するアーティストだ。笹尾さんたちに現代アートの様々なシーンを紹介し、アーティストやギャラリストらなどとネットワークを築く機会を提供するキーパーソンでもあった。青森県立美術館の「縄文と現代」展(2006年)などに村山さんが参加する際には、2人もアシスタント的な立場で同行し、美術のさまざまな現場を経験した。そんな深い関係をもつ村山さんの個展が杮落としとなったのは必然と言えるだろう(※5) 。project room sasaoでは展覧会は不定期で年に数回開催され、秋田を拠点に活動する作家や工芸作家、国際的に活躍する現代美術家まで、幅広い表現者の展示が実施された。project room sasaoは秋田に現代の新しい表現を紹介する重要な役割を担っていたと言えるだろう。

「ココラブ」のまとめによると、2013年までに24の展覧会が実施された。リストは以下。(*展示以外のイベントも実施されていたようだが、ここでは割愛する。)
2006年
村山留里子「婦人のコレクション」(2006年11月14日(火)~終了日不明)
2007年
「佐藤貢+skky」展(4月27日(金)~5月13日(日))
サトウヨシロウ「スケッチ展」(12月20日(水)~1月13日(日))
2008年
八木良太「studies スタディーズ」(1月19日(土)~2月11日(月))
田中真二郎「こことどこか」(10月12日(日)~26日(日))
「HANALEGI展」(11月1日(土)~24日(月))
金氏徹平「Great Escape」(12月6日(土)~28日(日))
2009年
開催なし
2010年
安西大樹個展(1月15日(金)~31日(日))
片桐功敦、津田直「-室礼「浮光」と「SMOKE LINE」- 片桐功敦と津田直の仕事」(4月29日(木)~5月9日(日))
倉重迅「Harder To Breathe」(11月12日(金)~28日(日))
狩野哲郎「魔術的な小道/magical paths」(12月4日(土)~26日(日))
2011年
奥村雄樹「煙突を潜望鏡に変える」(1月29日(土)~2月20日(日))
多田友充「つきのひかりがすとろぐやで」(6月4日(土)~6月26日(日))
大柳暁個「Your pochette」(9月23日(金)~10月16日(日))
華雪「わたしふね」(10月19日(水)~11月6日(日))
朝海陽子「22932/akita」(11月26日(土)~12月11日(日))
2012年
熊谷峻「表面 SURFACE」(2月15日(水)~2月26日(日))
安西大樹個展(4月6日(金)~22日(日))
津田直「BACK DOOR -桜のゆくえ-」(4月29日(日)~5月12日(土))
村山留里子展「MASK」11月3日(土)~25日(日)
2013年
金川晋吾「father」(2月13日(水)~3月3日(日))
クロダミサト写真展「沙和子/沙和子 無償の愛」8月17日(土)~9月8日(日)
「東北画は可能か?」第二期(9月11日(水)~10月6日(日))
山本太郎「ニッポン画顔見世」(10月9日(水)~11月4日(月))

※5.ココラブ・ラジオの第1回収録を参照
 

ココラボを支えたフォーエバー現代美術館と村山留里子さんの存在

フォーエバー現代美術館(FMOCA)は、秋田市の秋田キャッスルホテル内に2006年から2009年まで開設された現代美術ギャラリーだ。医療法人惇慧会と株式会社フォーエバーで成るウイズユーグループが運営していた。惇慧会を設立した穂積惇氏は美術品の著名なコレクターで、惇氏の子息・穂積恒氏が惇慧会を受け継いだのちにフォーエバー現代美術館の構想を立て、実現した。穂積恒氏は、草間彌生作品を多数収集しており、そのほかにもヨーゼフ・ボイスをはじめとする国内外の重要な現代美術作家の作品を多数所蔵し、膨大な現代美術のコレクションを築いている。2017年から2019年にかけては草間彌生作品を京都で紹介するフォーエバー現代美術館 京都祇園も開設した。FMOCAの展覧会の企画や監修は株式会社アート・コンサルティング・ファームが担い、同社代表取締役社長の加藤淳氏がFMOCAチーフキュレーターを務めた。
笹尾さんや後藤さんはFMOCA設立以前からウイズユーグループの展覧会に設営などのスタッフとして入っていたそうだ。FMOCAでは笹尾さんが展示の構成や設営に関わり、後藤さんは展覧会の広報物デザインを一手に引き受けている (※6)。
実空間をもつ美術館としてのFMOCAの活動は2019年で終息したが、作品の収蔵や管理は、現在もFMOCA名義で継続されている。笹尾さんはココラボ実現を力強く後押ししてくれた3つの要素のうちの第一に、穂積恒氏との出会いを挙げており、このようなコレクターが秋田にいることに大きく励まされたという (※7)。
「200年をたがやす」では、ココラブの一環として、project room sasaoの空間を文化創造館3階に実寸で登場させた。そして、村山留里子さんによる2012年のproject room sasaoでの個展「MASK」を再現展示した。穂積氏は2012年にproject room sasaoで「MASK」展を鑑賞し、展示されていた全ての作品の購入を決断した。本展は、FMOCAからそれら作品を借り受けることで、実現したのだ。

秋田市文化創造館3Fに再現されたproject room sasaoと村山留里子展「MASK」

そして村山さんは2020年のコロナ禍において、新たなマスクシリーズの制作に取り掛かる。フルフェイスのマスクのベースが入手できなくなったという理由もあったのだが、コロナ禍で多くの人がマスクをする状況において、ほとんどすべての人が身にまとうようになった鼻と口を覆うマスク型をベースに、新たなマスク作品6点を制作した。

2010年頃に作成し2012年にFMOCAのコレクションに入った「マスク」と、2020年から2021年にかけて新たに作成した「マスク」の両方が文化創造館で展示されたのだ。

以下、2つの異なる時代の「マスク」シリーズ一覧だ。

《マスク1》《マスク2》《マスク3》《マスク4》
ミクストメディア、C print、木製フレーム
立体:h24xW18xD6cm、 写真:68x57cm(額:70x59cm)
2010年
全てフォーエバー現代美術館蔵

《マスク2020b》《マスク2021a》《マスク2021b》《マスク2021c》《マスク2021d》《マスク2021e》
マスク本体:H16xW18xD3cm、ストラップ長さ: 71cm
《マスク2020b》は2020年、それ以外は2021年
《マスク2020b》、《マスク2021a》は個人蔵、それ以外は作家蔵

ちなみに「200年をたがやす」では、村山留里子さんの代表的な仕事である小さな布片を縫い合わせた作品も合わせて展示された。

左:《Untitled》
化学染料、絹
約H360xW245cm (展示時)、 2012年
右:《Untitled》
約H323.5xW314.5cm (展示時)、 2017年
高橋コレクション蔵
※6.アート・コンサルティング・ファームからの委託を受け、かたちとしては孫請けだが、穂積氏とは近くで関わり色々親交があったようだ。
※7.笹尾千草「奇跡のバランスでなりたつ美術の場所」ネットTAM、2008年
 

「ココラブ」の活動

2020年10月4日にココラボを訪問し後藤さんと会い、ココラボの活動をまとめ紹介するココラボのアーカイブ活動を「200年をたがやす」の一環で実施することを相談し、承諾をいただいた。東京にいる笹尾さんとはなかなか会う機会がつくれず、12月に電話で企画のことを説明し、こちらもご了承いただく。
アーカイブの方針について議論するなかで後藤さんから、いわゆる専門家や関係者のみで資料をまとめるのではなく、より多くの人にこの活動を開き、みんなでアーカイブを構築していきたいという提案が出る。ココラボ アーカイブ プロジェクト「ココラブ」という名称が決定し、参加型プロジェクトとして展開するという大まかな方針が固まる。
そして2021年1月19日の大雪の日に、ココラボで第1回目の会合とプロジェクト説明会を実施した。その際の後藤さんのレクチャーで、ココラボの設立から現在に至るまでが紹介された。アーカイブ活動を進めるうえで中心的な役割を担うのが、膨大なチラシ類とココラボのブログだ。後藤さんは、これまでココラボで実施した展覧会のチラシはもちろんのこと、project room sasaoをはじめとする川反中央ビルで開催された様々な展覧会やイベントのチラシ、それに加えてこの15年間に日本国内各地から送られてきたチラシなども捨てずに収集しており、まずはそれらを整理することが「ココラブ」の基本活動となった。

2月のミーティングでは、ココラボで大量にストックされたチラシの一部を地下の保管庫から取り出し、参加したメンバーで仕分けをした。1〜2年分を、ざっくりとココラボ 、project room sasao、川反中央ビル、あきたアートプロジェクト(※8)、その他チラシ類に分類した。この作業が膨大なものであることに、メンバー全員がたった1時間程度の作業で気づくことになった。

3月21日に、ついに文化創造館が開館。同日から「200年をたがやす」の第1期「つくる」がスタートする。「ココラブ」は文化創造館2階の準備室Bを活動拠点とし、アーカイブ作業を実施することになる。3月22日には文化創造館でのはじめてのミーティングを開催し、プロジェクトメンバーも徐々に固まってきた。隔週月曜日の18:00-20:00を定例ミーティング開催日とし、アーカイブ作業だけでなく、進行状況の共有や展示構成についての話し合いなどを定期的に実施することが決まった。プロジェクトマネージャーとして、グラフィックレコーディングを専門とするファシリテーターの平元美沙緒さんが参加することになり、進捗管理などもしっかりと進めてもらえるようになった。
アーカイブ作業は、2005年から2020年にココラボや川反中央ビルで開催された全イベントをスペース毎に分類し、時系列に並べる年表の作成が中心となった。とにかく分類整理を日々続けることになる。

毎回10名程度のメンバーが集まり、チラシを分類整理し、同時にgoogleスプレッドシート上に作成した年表に開催された展覧会やイベント情報をひたすら入力していく。チラシによっては日付のみで年号が入っていないものも多く、ほとんどのイベント情報が掲載されているココラボのブログとチラシを照合しながらアーカイブ作業は続く。
何度も話し合うなかで、年表とチラシ紹介を中心に展示を構成することが決まった。大判用紙に垂れ幕のように一年毎にイベントをリスト化した年表を張り出し、膨大なチラシから月替わりでプロジェクトメンバーがおすすめのイベントチラシをピックアップし、ポップを付けて紹介するチラシ展示をする。また、プロジェクトメンバーの菅原葵さんが調査した街のショップなどの移ろいや、柳澤龍さんが調べたココラボに関わる人の相関図なども作成し、公開することになった。

「みせる」期間の展示の様子

最初の目標は「つくる」が終了する6月中旬までに年表を完成させ、「みせる」会期初日の7月1日には完成された年表を展示することだったが、作業が追いつかず「みせる」初日には年表は不在だった。「ココラブ」の活動は展示の現場である文化創造館3階のスタジオA3に移動し、年表やチラシ展示の手前に編さん室を構え、展示中もメンバーが会場でアーカイブ作業をすすめる。年表は2005年のココラボ開設の年から少しずつ完成させ張り出していき、展示終了のわずか数日前に2020年の年表が完成し、ついに16年分の全てのココラボの活動年表が設置されることになった。
通常の展覧会では完成された展示を観客に提示することが求められるが、本展ではアーカイブ活動自体を公開し、むしろ展示会場で「ココラブ」の生の活動を紹介するに至った。それにより、観客とメンバーとの直接的な対話の機会が生まれたことはとてもよかったが、一方でココラボ15年強の活動の総体をちゃんと目撃できた人は会期終了前のわずか数日間に訪れた人たちのみとなったため、これは非常にもったいないことだった。

しかしながら「ココラブ」により、ココラボがストックし続けた大量のチラシ類が整理され、年表が完成されたことは意義深いことだ。公共の美術館などは、資料はしっかりと分類整理され、展覧会毎にカタログが作成されるのは当たり前だが、ココラボのような民間の自主的な活動の資料がまとまり、アーカイブとして常に引き出し可能となることは、非常に困難だ。日々の活動をするだけで精一杯というのが多くの自主的なアートスペースの現状だ。また、ウェブサイトよりもSNSが広報媒体として主流となったことで、多くの情報は刹那的に流れていき、ストックとして総覧することがほぼ不可能となっている。実際にアートスペースの活動を辿ろうとしても、主宰者に直接話を聞かない限り全容を掴めないことがほとんどだ。そのようななかで、レンタルスペースとして様々な人が短い期間で利用し膨大な活動が行われてきたココラボの活動の全容がリスト化され、公開されたことの価値は非常に大きいのだ。
アーカイブ活動としては、「ココラブ」ではできていないことも多数ある。例えば、ココラボや川反中央ビルに関する新聞や雑誌、ウェブサイトなどの記事の収集などは今回はできなかったため、外部からの客観的評価や記録をまとめることはできていない。できていないことが多数あることは、今後の課題として注記しておく。
ただ、今後も「みんなのアートスペース」として、公共機関ではできないような自由でしなやかな活動がココラボや川反中央ビルから積極的に展開されることを願うとともに、このアーカイブがその一助となれば幸いだ。そして、半年以上地道な活動を続けたココラブメンバーに感謝したい。また、後藤さんや笹尾さんをはじめ川反中央ビルにこれまで関わってきた多くの人々や、他の土地にはない稀有なアートセンターを実現し続けているココラボまわりの人々に、尊敬と感謝の気持ちを改めてお伝えしたい。

※8.あきたアートプロジェクトは秋田県主催の事業で、ココラボが事務局を担当した。

服部浩之(キュレーター/「200年をたがやす」全体監修)

【参考資料】
ココラボラトリー ウェブサイト
ジャンルと世代を超えた秋田のアートスペース3周年~ココラボラトリー」秋田経済新聞、2008年(2021年12月22日閲覧)
笹尾千草「奇跡のバランスでなりたつ美術の場所」ネットTAM、2008年(2021年12月22日閲覧)
笹尾千草インタビュー、2011年(2021年12月22日閲覧)
榎本市子「Local Action vol.018 川反中央ビル」、webマガジン『コロカル』マガジンハウス、2013年(2021年12月22日閲覧)
西村佳哲『いま、地方で生きるということ』ミシマ社、2011年